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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)5076号 判決

原告 島崎由五郎

被告 鐘淵紡績株式会社

一、主  文

被告会社は原告に対し被告会社昭和二十四年増資新株式申込証拠金領収証第二四三六〇五号から第二四三六〇七号までに対応する株式を原告名義に書換えの上、その株券を引き渡せ。

訴訟費用は被告会社の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、其の請求の原因として、「原告は昭和二十五年八月二十三日訴外山文証券株式会社から主文第一項掲記の株式三百株を、同日の市場相場である一株につき金百五十三円の割合により、合計金四万五千九百円で買受け、名宛人滝浦濶宛の主文第一項掲記の被告会社昭和二十四年増資新株式申込証拠金領収証三通(この領収証による申込金は、払込期日において株金払込金に振替充当せられ、領収証は、同人名義の株券領収証を兼ねたものである。)及び名宛人名義の株式名義書換のための白紙委任状の交付を受けた。

これより先、被告は昭和二十五年二月十三日、本件増資による株式につき、すでに一般株主に対し株券を交付する旨通知している。

よつて原告は被告に対し、株主権にもとずき、右領収証に対応する株式を原告名義に書換の上、その株券を引き渡すことを求める。」と述べ、

被告の抗弁事実に対する答弁として、

「本件申込証拠金領収証が失効したとの点及び被告会社が右領収証に対応する株券を交付したと主張する者にその受領の正当権限があつたとの点は否認する。その余の事実は、すべて認める。

然しながら、本件申込証拠金領収証が被告主張のような手続により失効する理はない。従つて被告会社の主張する株券の発行は、何等その受領につき正当な権限を有しない者に対して為されたものであるから、無効である。」と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、

「原告がその主張の申込証拠金領収証及び白紙委任状を現に所持していること及び本件増資新株式の一般株主に対する株券交付の通知が原告主張の日時に為されたことは認めるが、原告の本件株式取得の事実は知らない。」と述べ、

抗弁として、「本件白紙委任状附申込証拠金領収証は、もと訴外山三証券株式会社がこれを所持していたところ、同訴外会社は、昭和二十四年十二月二十三日被告会社に対し、右領収証を喪失した旨届出たので、被告会社は商慣習に従い、昭和二十五年一月二十一日附官報に、「右領収証喪失の旨の届出があつたから、本公告の日より三十日以内に異議の申出のないときは、右領収証を無効とする。」旨の公告を掲載したが、所定期間内に異議を申出た者はなかつた。

右手続により本件領収証は失効したので、被告会社は同年三月九日本件株式につき、前記領収証の名宛人である滝浦濶名義の株券を作成し、右株券受領につき正当権限を有すると認められる前記山三証券株式会社に対し、これを交付した。

よつて原告は本件株式につき権利を取得する謂われなく、仮に権利を取得したとしても、本件株式に対する株券は被告会社において既に発行済みであるから、原告の請求には応じられない。」と述べた。<立証省略>

三、理  由

原告がその主張の被告会社昭和二十四年増資新株式申込証拠金領収証三通(申込金は、払込期日において株金払込金に振替充当され領収証は、名宛人名義の株券領収証を兼ねたものである。)及び右領収証の名宛人名義の株式名義書換のための白紙委任状を現に所持していることは、当事者間に争いがなく、原告本人島崎由五郎訊問の結果及び右訊問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四号証の二を綜合すれば、右領収証及び白紙委任状は、原告が昭和二十五年八月二十三日訴外山文証券株式会社から、被告会社の昭和二十四年増資新株式三百株を、同日の市場相場である一株につき金百五十三円の割合により、合計金四万五千九百円で買受けた際、右訴外会社からその交付を受けたものであることが認められるから原告は反証のない限り、善意無過失でその交付を受けたものと認めるべきであり、従つて白紙委任状附株式申込証拠金領収証の引渡による商慣習により適法に右株式を取得したものというべきである。

而して被告会社が原告の右株式取得前である昭和二十五年二月十三日本件増資による新株式につき一般株主に対して株券を交付する旨通知したことは当事者間に争いがない。

よつて次に被告の抗弁について判断する。

本件申込証拠金領収証は、もと訴外山三証券株式会社がこれを所持していたとして、昭和二十四年十二月二十三日右訴外会社より被告会社に対し、右領収証を喪失した旨の届出があつたので、被告会社が昭和二十五年一月二十一日附官報に、右領収証につき喪失の届出があつたとして当該公告の日より三十日以内に異議の申出がないときは、右領収証を無効とする旨の公告を掲載したが、所定期間内に異議の申出がなかつたこと及びそこで被告会社が同年三月九日、本件株式につき右領収証の名宛人である前記滝浦濶名義の株券を作成し、これを前記山三証券株式会社に交付したことは、いずれも当事者間に争いがない。

しかしながら、盗難滅失等の理由に因り無効となし得べき株式等証書の種類、及びこれを無効とするための手続は、法律において特に明定されているところであつて、法律に定められた証書以外の証書を無効とすること及び法律に定める手続以外の手続で証書を無効とすることの如きは到底法律上認められないものと言わねばならない。けだし、一旦有効に成立した証書の効力を、私人の任意の判断により消滅せしめることができるとするならば、甚しく取引の安全を阻害する結果になること明かであるから、法は特に必要と認められる種類の証書につき、公示催告による除権判決という厳格な手続を経て初めて、その無効を宣言する建前をとつているものと解せられるからである。

而して、現行法上、株式申込証拠金領収証及び株金払込領収証については公示催告による無効宣言は許されていない。

被告会社は、官報の公告により領収証を無効とする方法は商慣習であると主張するけれども、公示催告による株券等証書の無効宣言に関する法律の規定は、右説明の趣旨からすれば強行規定と解されるから、これと相容れない被告主張の商慣習は、その存否を確定するまでもなく、法律上有効にこれを認めることができない。

従つて、被告会社が為した前記官報公告は何等本件申込証拠金領収証を失効せしめ得るものではない。

右領収証に対応する株式を善意無過失で取得したと認められる原告が、右株式の株券を受領する権限を有すること明かであり、前記山三証券株式会社は右株券の発行を受けるべき何等の権限をも有しないものと認めるのを相当とするから、被告会社の山三証券株式会社に対する前記株券発行行為は、その効力なきものと言わざるを得ない。右の理は、仮令被告会社が前記官報の公告により、本件領収証を失効したものと信じた結果、山三証券株式会社を右領収証に対応する株券を正当に受領する権限があるものと信じてこれを交付したとしても、何等異るところはない。被告会社の抗弁は理由がない。

以上認定したところによれば、被告会社は結局本件株式申込証拠金領収証に対応する株券を未だ有効に発行していないことになり、この点において、原告の本件株式取得は、商法第二百四条第二項に所謂「株券発行前に為した株式の譲渡」に因るものとして、被告会社に対しその効力を生じないのではないかとの疑いを生ずる余地があるが元来右条項は、迅速を要する会社の株券発行事務を円滑に進捗させるために、右事務に支障を来させるような株主の更替を会社に対する関係においては一切認めないことにし、もつて発券事務渋滞の弊なからしめようとの考慮から、自由譲渡性をその本質とする株式の譲渡ではあるけれども会社が株主名簿及び株券の調製等発券準備を完了し、一般株主に対し株券の交付を通知するまでの間を限り、会社に対する関係においてその効力を認めないでおこうとの趣旨に出たものである。従つて会社としては右のような株券発行準備完了前株式譲受人からする名義書換の請求は、右法条を以てこれを拒みうるけれども、その準備完了後株式譲受人からする名義書換及び株券引渡の請求は、白紙委任状附株式申込証拠金領収証の引渡による株式譲渡の商慣習が是認される以上、右法条を以てこれを拒むことはゆるされないものといわなければならない。けだし、かような場合に、株式譲渡の効力を会社に対する関係において認めても会社は既に株式引受人を名義人として当該株式に対応する株券を作成するし、何時でもこれを株主に交付しうる態勢を備えており、発券事務に何等の支障を来す虞があるとはいえないからである。この見解に立つて本件を見るに、すでに認定したように、被告会社が昭和二十四年増資新株式につき、一般株主に対し株券を交付する旨通知したのは昭和二十五年二月十三日であるから、被告会社は、現在では原告の本件株式取得が商法第二百四条第二項の株券発行前の譲渡によるものであるとして原告の名義書換の請求を拒むことができないものというべきである。

してみれば、被告会社は前記申込証拠金領収証に対応する株式を取得した原告に対し、右株式を原告名義に書換えるべき義務あるとともに、その株券を未だ有効に発行していないこと前記認定の通りであるから、これが発行として該株券を原告に引き渡すべき義務あるものと言うべきである。

よつて原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小川善吉 中島一郎 村上悦雄)

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